シュッシュッ ふれあい 信頼 地元とともに
それも入江先生直々の御指名で。
入江先生・・・まだ研修医なのに、相変わらず素晴らしいお力をお持ちの様で
一体どこの権力を動かしたのかは分からないけれど、琴子が矢追先生からサイン本をいただいた翌日からあたしの担当に変わった。
因みに・・・そのサイン本は入江先生から次の担当のあたしにと渡され、あたしは前からファンだった事もあり単行本全巻持っているので、ナースステーションの共用娯楽として回し読みする事にした。
勿論、琴子の目には触れさせない条件付きで。
矢追先生にはその旨を話して、あたしが持ってる漫画全巻にサインしてもらったわ。
もう一生の宝物よ
漫画家の先生と知ってから、6人部屋から個室に移された矢追先生。
一応主任から打診されたらしいんだけど、要はあの二人と関わると騒ぎになるから個室管理が楽という問題児扱いで特別に個室が提供されたというのが裏事情。
作品を描く際は面会謝絶に出来ると聞いて、矢追先生もいそいそと個室に移った。
「ついでに担当が来た時も面会謝絶でお願い」などという冗談とも本音ともつかないお願いもされてしまったのよね。
そして、あれ以降回診は入江先生のみとなった。
西垣先生が鳥肌が立つと言って、矢追さんの処置を入江先生に任せたから。
「全く・・・女好きの俺を捉まえて、冗談じゃないよ。入江、いっそ大蛇森先生と噂になってくれ」と言ったらしく・・・その後、西垣先生は仕事に忙殺された。
・・・入江先生、一体どんな手を使ったらご自分の指導医を忙殺できるのでしょうか!?
「大分、落ち着いてきましたね」
入江先生が言うと、矢追さんが「噂がですか!?」ととんでもない事を言った。
あっ 入江先生の青筋が浮き上がる。
矢追さんも気付いて「やだぁ、先生怒ってるぅ。その表情、そのままで是非!!」と嬉々としてデッサンしようとした。
す、すごいわ・・・この人。琴子並みの神経かも。
本気で入江先生惚れちゃうんじゃないの!? と、一瞬思ったあたしが馬鹿だった。
入江先生が冷凍庫並みのブリザードを発しながら仕事モードに戻る。
「では、早くよくなってください」
「それって、私が邪魔だから早く退院しろって事ですか!?」
「患者に早くよくなる様願うのは、医師も看護師も共通ですよ。ねえ、桔梗さん」
あたしに話を振られ「は、はい!! そうです」と慌てて言った。
入江先生が帰った後、矢追さんが「はぁ、見た目はいい男なのに・・・受じゃないなんて残念」と言い、あたしはずっこけるかと思った。
「普通、男性で男性に襲われたいなんて思う人いませんよ」とあたしが注意すると「あら、桔梗さんはファンクラブ会長なんでしょ。襲われたいって思わないの!?」と聞き返された。
あたしは悩んで「・・・もう今は思いませんね。あの入江先生、見た目と違って嫁LOVEな人だって知ってるし、その嫁はあたしの友達ですからね。彼女を泣かせたら、入江先生が黙ってませんよ」と忠告をする。
矢追先生は膨れて「だって・・・鬼畜王子が見たまんま『攻』って面白くないじゃない」と呟く。
そして、「そうだ!! ねえ、奥さんと友達なら取材させてもらっていい!?」と聞かれ、まあそれくらいならいいだろうと思って「琴子ならOKするんじゃないですか」と思わせぶりな返答を返してしまった。
一応琴子に聞いてから返事しますとは伝えたけどね。
その話を琴子にしたら案の定「いいよー。入江くんの事をたくさん教えたらいいのね」と嬉しそうに言った。
琴子は入江先生との話を聞いてくれる人は大好きだから、きっと良いと思っていたのよね。
矢追先生に返事を伝えて、琴子の日勤の終わりに二人で病室に遊びに行く事にした。
矢追先生は早速とラジカセをセットして「ごめんねー、メモを取るのが遅いから録音させてね」と言った。
琴子も気にしない性格だから「いいですよ」と安請け合いする。
あたしも付き添いと称してついてきたけど、知らない情報を聞けるんでないかとちょっとワクワクしたのだ。
「ねえ、入江先生と初めてHしたのはいつ!?」から始まり、下ネタに終始して琴子を泣かせた矢追先生。
「ねえねえ、琴子さんから入江先生を襲ってみない!?」まで言われて、真っ赤になった琴子が口をパクパクさせながら・・・ようやく発した一言が「い、入江くーん」だった。
そんな小声で助けを求めたって・・・
来たのだ!! コレが。
入江先生、貴方の耳はコウモリ並ですか??
「琴子、帰るぞ」ですって。
琴子は慌てて椅子から立ち上がり、入江先生に駆け寄る。
「い、入江く~~~ん」
琴子を抱きしめる入江先生。
実はこの瞬間の顔って入江先生、少し優しい顔するのよね。
琴子が泣いて胸に飛び込んでくるの好きらしくて。
いや、泣いてなくても胸に飛び込んでくるの分かってて敢えて胸で受け止めてる感じ!?
ああ、ほら、愛しそうに背中に手を回して・・・いいわぁ、あたしもやって欲しい
って、横でシュッシュッって変な音が??
横を見ると矢追先生が高速で二人のラブシーンを模写していた。
・・・でも、琴子がちゃんと少年になってるのね。
そこは外せないのね、矢追先生。
入江先生は矢追先生の側に来て「悪いですがこいつに変な質問は止めてください。それとコレはプライバシー保護の観点から没収させていただきます。テープ代はお返ししますので」と言って入江先生は財布から500円玉を出して矢追先生のデッサンしてたテーブルの上に置いた。
矢追先生は「はーい」と詰まらなさそうに返事をする。
そして仕返しとばかりに「ねえ、入江先生。奥さんとは週何回してるんですか!?」ととんでもない質問を投げかける。
入江先生はニヤッと笑って「週にですか。まあ10程度�
��ゃないですか!?」とサラッと答える。
そう答えて、入江先生は琴子を連れて病室を出て行ってしまった。
琴子が引きずられながら「なっ・・・」と言っていたが、その気持ちが良く分かる。
入江先生・・・凄すぎでしょう
矢追先生は「うわぁ、毎日!? やるぅ入江先生」と喜んだ。
「やっぱり新婚はラブラブよね」と矢追先生は、あたしに相槌を求めたけど、あたしは二人が新婚じゃないとも、夜勤もあって毎日はデキないとも言えず笑って誤魔化す。
矢追先生と話ながら、あたしは明日の琴子の腰を心配せずにはいられなかった。
この分だと・・・入江先生、手加減無しね。
あたしは自分のせいもあり、明日の琴子のフォローを覚悟した。