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そうちゃんがとってもご機嫌だったこの日、夜勤の担当の看護師さんは、そうちゃんが転院する時には涙を流してくれたほどにいつもそうちゃんのことを可愛がってくれていた、とても優しくて好きな看護師さんでした。
調子の良さそうなそうちゃんにも安心していた私たちは、この日は何の心配もなく「また明日ね~」とそうちゃんに挨拶をして足取り軽く笑顔で帰ることができました。
家に帰ってからも、両親とこの日のご機嫌なそうちゃんの映像を見返し、この日は家族みんなが笑顔で眠りにつくことができました。
ところが翌朝、病院へ行く準備をしていた時のこと。
ふと携帯を手に取ると【不在着信】の文字が見えました。
そうちゃんの病院からの着信でした。
『そうちゃんが少し具合が悪そうなので、病院へ来ていただけますか?』
残された留守電には、昨晩から担当をしてくださっていた看護師さんのいつも通りの声が入っていました。
わざわざ着信があったことに多少の不安は感じましたが、『少し具合が悪そう』という表現と、いつもと変わらない雰囲気の看護師さんの声を聞いて、私は心配ながらも、きっとそれほど深刻なことではないだろうと思いました。
正確に言うと、そう思おうとしていたのかもしれません。
すぐに病院に電話をかけ直し、名前を伝えると、その電話はすぐにセンター長へと繋げられました。
「ちょっと調子が悪そうでね。今採血して検査に出してるところなんですけどね。でも、すぐに救命に関わるようなそんな感じではないと思うので、とりあえずこちらに来ていただけますか?」
いつも通りのセンター長でした。
これまで何度も『救命は難しいかもしれない』と、最悪の場合のことをまず伝えてきたセンター長が、『すぐに救命に関わるような感じではない』と話してくださったので、私はきっと大丈夫だと自分に言い聞かせていました。
でも、この時はまだ、血液検査の結果が出ていなくて、先生方も私と同じようにきっと大丈夫だろうと思っていたのです。
それでも、すぐにそうちゃんの顔を見て安心したかった私は、最低限の準備を済ませてすぐに病院へと向かい、念のため主人の職場にも連絡をし、病院から電話があったことを伝えました。
主人は職場に着いたばかりでしたが、上司の許可をもらい、そのまま病院へと向かってくれました。
病院へ向かう道中、『大丈夫、大丈夫』と何度も言い聞かせながらも、なんだか胸騒ぎを感じ、少し緊張したまま病院へとたどり着きました。
急いでGCUへ向かうと、入り口にあるベンチに主人が1人で座っていました。
処置中で入ることができない、
詳細はまだ何も聞けていない、と。
主人はとても不安そうでした。
行けばすぐに会えると思っていた私も、急に不安になってしまいました。
それからしばらくして、1時間くらい待ったあと、GCUの入り口が開き、そこには泣きそうな顔をした主治医の女性の先生がいました。
「中にどうぞ」
先生の表情を見ただけで、何か良くないことが起こっているのだということだけは分かり、怖くて何も聞けないまま、私たちはGCUの中へ入っていきました。
そうちゃんのベッドに向かうと、そこにはセンター長を始め、沢山の先生や看護師さんたちが心配そうにそうちゃんを囲んでいました。
そうちゃんの姿を見る前に、私たちに気づいたセンター長から、血液検査の結果が悪かったこと、レントゲンを撮るとそうちゃんの身体には大量のガスが溜まってしまっていたこと、原因は分からないがショック状態になってしまっていることを説明されました。
私はすぐにそうちゃんの顔が見たくて、そうちゃんの正面に行きました。
いつも通りベッドに横たわるそうちゃんは、何かにじっと耐えているような表情をしていて、いつもより顔色も白く感じましたが、それでも私たちが覗き込むと、しっかりと目を開けて私たちの方を真っ直ぐに見つめてくれました。
小さな身体で一生懸命に闘っていました。
状態はかなり悪く、他の家族にも連絡をと言われ、それでもきっと大丈夫だと、また奇跡を起こしてくれると信じている自分と、でもその奥でゆっくりと覚悟を決め始めている自分と、頭も心も混乱していて、上手く整理ができずにいました。
昨日まであんなに元気だったのに…
何で突然こんなことに…
そう考えるとすごく悲しくて苦しくて、やりきれない気持ちにもなりましたが、でも、目の前で小さなそうちゃんが真っ直ぐ前を見て頑張って闘っている姿を見ていたら、自然と私もちゃんと一緒に闘わなければという気持ちになることができました。
それは主人も同じでした。
ちゃんとそうちゃんが安心できるように、いつも通りの笑顔でいよう。
そう心に決めてからは、私たちはずっと笑顔でそうちゃんに話しかけ続けました。
そうちゃんは時々痛いのか辛いのか、顔を歪めるような表情も少し見せましたが、ほとんどの時間を何かに耐えるように時々唇を噛みしめながら、しっかりと前だけを見て闘い続けてくれていました。
きっと意識も朦朧としていたはずでしたが、次々と面会に駆けつけた家族に気づくと、その目をしっかりと見つめて、ずっと力強い姿を見せ続けてくれていました。
そしていつもは何があっても落ち着いているセンター長も、この日は少し余裕のない様子で、そうちゃんに付ききりで1分1秒を無駄にしまいと処置を続けてくださり、一緒に一生懸命闘ってくれていました。
心配そうにそうちゃんを見つめる先生方、看護師さんたち、臨床心理士の先生、保育士さん、掃除のおばちゃん。
すべての人が奇跡を願っていることが伝わってきました。
そうちゃんは幸せだね。
心からそう思いました。
しばらくすると、すっかり力を失ってしまっていたセンター長と看護係長さんから個室へ移動することが提案され、そこで初めて「最期」という言葉が現実であることを私たちは知らされました。
目の前でこんなに頑張ってるのに…
これは本当なのかな…
先生のお話がちゃんと理解できたような、よく分からないような感じで、厳しい現実を突きつけられても、それでもまだどこかで奇跡を信じていたい自分がいました。
「移動の時はママに抱っこしてもらおうね」
主治医の女性の先生が移動の準備をしながら、優しくそうちゃんに話しかけてくれていました。
そし
そうちゃんを抱っこする直前になって、ふとこれが最後の抱っこなのかなと実感すると涙で視界がぼやけてしまい、でも、私は大事なこの瞬間を目に焼きつけたくて、しっかりと涙を拭ってからそうちゃんをゆっくりと自分の胸に抱き寄せました。
するとその瞬間、ずっと力強い眼差しで頑張っていたそうちゃんの表情が、突然ふわっと和らぎ、そうちゃんは可愛い歯を見せてニッコリと笑ってくれました。
「笑ってる!」
嬉しそうにそう叫んだのはセンター長でした。
気づくと家族も先生方も看護師さんたちも、今にも泣きそうな顔をしてそこにいた人たちがみんな、一瞬で笑顔になっていました。
そうちゃん、ありがとう。
こんなに寂しくてたまらないときを、自然と笑顔にしてくれたそうちゃんがとても愛しくて、心は不思議なくらいに温かくなっていました。
今まで沢山頑張ってくれてありがとう。
沢山の幸せをありがとう。
この気持ちがちゃんと届くといいなと願いながら、私は何度も何度もそうちゃんに伝えました。
そして、そうちゃんは優しい笑顔で皆を笑顔にしたあと、大好きな人たちに囲まれながら、笑顔のままゆっくりと天国へと旅立っていきました。