要は、きっと大丈夫がないんでしょ?

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生後3日目。

前日に引き続きmatoのいる小児医療センターまで会いに行く予定でした。

産院にいると他のお部屋から赤ちゃんの泣き声が聞こえて不安になってしまうので

出かけていた方がまだいい、と思っていました。

朝食を食べて、毎朝立ち寄ってくれる旦那も仕事に行き、一人でぼーっとしていると、

例の看護師さんが様子を見に来てくれました。

「今日も医療センター行くんだよね?

今日は、頑張って母乳持って行こうか。」

そう言って、搾乳機を持ってきて、搾乳を手伝ってくれました。

たった20ミリ。

初めてのmatoにあげる母乳。

大切に母乳パックに入れてくれて、

「お母さんの産後すぐのおっぱいには本当にたくさんの栄養が詰まってるから、

頑張って赤ちゃんに飲ませてあげようね。

冷蔵庫に入れておくから小児医療センターに行くときに立ち寄ってね」と。

それから、matoのいる病院のことをよく知っているこの看護師さんは

「あの病院のスタッフに任せておけば、きっと大丈夫。いい方向に行くよ。

そして、お母さんせっかくだから病院のカフェででもちょっとゆっくりしてきなさい。

1杯くらい、コーヒーだって飲んじゃって大丈夫だから。」

何気ない会話でしたが、ずいぶんと心があったかくなったのを覚えています。

その日は1人でmatoのもとへ向かい、面会してきました。

持って行った母乳をNICUの看護師さんに渡すと、

「ちょうどミルクの時間だからこれ赤ちゃんに飲んでもらいましょう」

と。まだ哺乳瓶で飲めないので経管栄養のボトルの中にほんの少しの

母乳が入りました。

そして産院の看護師さんのおススメに従い、久々にカフェでコーヒーを飲みました。

なんだか力が入っていた体がゆっくりと少しほどけていく感覚になりました。

その日,私が帰った午後に、matoの眼底検査が行われる予定になっていました。

結果は出次第、翌週のどこかでお話しします、ということでした。

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あれから、二年近く経った。
30だった俺も、32になった。
ボアはアン先生と結婚して、今は産休中だ。
俺は相変わらずあのマンションに住み、同じ職場で働いている。
何かと大池まで歩いたり走ったりするのは、俺の習慣となった。
芝生広場で、お前が出てこないかなと思いながら水を呑み、大池のベンチで、ここからお前が出てきたんだよなと考える。
あのとき光っていた目のことも、お前は教えてくれたっけ。
「僕たちは、何でも人体の可変性で対応するクセがついてる。だから、灯りはこっちに比べるとずいぶん少ないんだ。自分で目を光らせて照らすから」
「でも、こっちで暮らして気付いたんだ。もっと灯りを増やせば、目を光らせる機能は退化するかもしれないけど、僕らの消耗はかなり減らせるんじゃないかな。もしかしたら、寿命だって延びるかも」
「なんで僕の変性が通常より早いスピードで進行したか、考えてたんだけど、向こうでの生活ほど消耗しなくて、体力があったからというのも影響してるかもしれない」
チャンミンは少し顔を赤くして
「ユノの近くにいて、影響を受け続けたせいも大きいと思うけど」
と付け加えてた。
チャンミン…
どこで、どうしてる?
一年くらいは待とうと思った。
一年経って来なかったとき、もう一年と自然に思った。
でも、もうすぐお前が去って二年目が来たら、そろそろ待つのがつらくなりそうだ。
そうは言っても、チャンミンにまた会ったら…
今度は俺もゲートをくぐるのかもしれない。
そのときは、少しくらい生活を整理する時間が欲しいけど。
なんでもいいから、出てこいよ。
池じゃなくて芝生の上に。
ぼんやり見つめる芝生の上で、空気が不意に密度を増してゼリーのように揺れ始めるのが見えた。
あれ? なんだあれ?
まるで長方形に切り取られた空間が、音もなく開いていく。
きっとこれはゲート、そしてその向こうには…
背の高い女性が、幼児を抱っこしている。
え、子ども…?
その子の顔は、お前に似て目がぱっちりしているものの、顔の輪郭や唇は俺に似ている…?
は?
池から全裸で出て来られたときも驚いたけど、芝生から子連れで出て来られても驚く。
「ただいま、ユノ」
「お前…」
どう見ても母親の、チャンミンがいた。
「その子…」
「はい、パパですよー」
「パパー」
うわ、こっち来た!
「あのときは女性として完全ではなかったので、身体を整えてからユノの体液を再利用させていただいたわけ」
「な、なるほど…」
人工受精みたいなことかな?
チャンミンなら使っていいと言ったのは俺だ。
「とりあえず、うち来る?」
「うん」
圧倒されて頭がぼんやりしながらも、言うことは言っておかなきゃ…
「なんでもっと早く来れなかったんだよ?」
「妊産婦と生後一年未満の乳幼児は、安全のためゲート通行禁止なの」
そんなの聞いてないし…
「この子も一歳になったし、やっと許可も取れて、来たんだから」
「チャンミンごめん、大変だったな」
あ…、こいつには逆らえない予感…
遠い星から来た妻子を連れて、マンションに帰ると、お隣の奥さんが俺に近寄ってきた。
「まあ…あれからどうしてるかと思ったけど、奥さん、帰ってきてくれたのね。まあ子どもまで」
「はあ…」
「よかったわね先生」
俺がまた女に逃げられたと思って、心配していたのだろうか?
「先生って意外と波瀾万丈よね、でもこれからはきっと大丈夫ね」
…なんかすごい噂になりそうだな。
これから生活の基盤をどこに置くのかとか、話さなきゃならないことはたくさんあるけど…
「ユノ?」
「はい…」
「この子には兄弟も欲しいの」
「はい…」
「あ、抱き方もっと気を付けて!」
「すみません…」
怖い…母親チャンミン強い…
すごいのにつかまったような気がする。
「なんか悪口言った?」
「いいえ…」
こいつには思考も読まれるから、気が抜けないな…。
「ユノ、浮気してないよね?」
「してません…」
「許さないから」
「承知しました…」
こいつ嫉妬深そうだな、うわあ…
「何か文句でも?」
「ありません…」
でもいいんだ、生身のお前と子どもに会えたから。やっていけないことはないと思うんだ。
とりあえず、言っとかなくちゃね。
「チャンミン、お前と子どもを愛してるよ」
「ユノ…、よかった」
ほら、お前は笑うとやっぱり可愛い。
この先も波瀾万丈のような気はするけれど、一緒にいられればどこでもいいや。
あの日に見た水の色の瞳も、こうして穏やかに微笑む茶色の瞳も、どちらもお前の目には変わらない。
お前がお前である限り、愛せるような気はするんだ。
「これからもよろしくな」
「ん」
あ、薄暗い部屋のせいか、お前の目が少し水色になった…
「ね、キスして」
「はいはい」
ぽちっとお願いします( ´∀`)/~~

*お読みいただき、ありがとうございました。
次は、あとがきですね…。

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