A子「彼のどこが良くてお付き合いすることになったの?」
B子「う~ん。彼、とってもやさしいんです!」
誰かとお付き合いをする、そして、誰かと友人関係や親密な関係になる上で「やさしさ」ってすごく高ポイントで、尊いものだと思います。
ただ一方で、「カッ」とした時にDVなどの傾向が出る人、キレてしまう人も、もうそれは決まりきったパターンのように「普段はやさしいのに」とか「すごくやさしいんです。彼」ということも言われます。
ただの、人間的な尊さとしてのやさしさと、不幸にもDVなどにもつながってしまうやさしさってどこに違いがあるのかを考えていました。
話が少しだけ遠まわりになるのですが、精神科医の方とか、カウンセラーの方の知り合いと話しているときに、やっぱり注意するのが、第一印象で
「この人は“過度に”やさしそうな人だ」
という感想を持つ人だそうで、これは僕自身もそう思います。
どういうタイプかと言うと
「あ、どうも、はい、ここに座れば良いですかね(ペコペコ)、あ、はい、すみません。本日はお時間を作って頂きありがとうございました(ペコペコ)」
です。こういう人にはちょっとだけ注意をします。というか、この傾向を持つの僕なんですけど。笑
どうしてかと言うと、この人達(僕もその傾向を含んでいます)って、たとえばみんなとご飯を食べに行ったときに、あんまり目を合わせないで、「ご飯を食べきる」というミッションに集中しているようなところがあったりもする。それを言うと「ただの人見知りじゃないか」ってなって「人見知りの人はみんな危険なやさしさを持っているんですか」ともなると思います。
でも、そうじゃなくて
少し注意を要するやさしさを持っている人って
・自分を閉じて、そして、自分を抑え、ひたすら我慢してきた。仕事などですごく他人の役に立つことで自分の居場所を作ろうとしてきた人
という人です。でも、これも多分日本文化には他の諸外国と比べても多いタイプだと思います。
でも、ここでストレートに
ただの、人間的な尊さとしてのやさしさと、不幸にもDVなどにもつながってしまうやさしさってどこに違いがあるのか
を言うと
「尊いやさしさの人は、余裕が無くなってきた時に『無理』とか『いやぁ、それはちょっと違うかも』とか『ちょっと良い?今話しても』が言える人」
です。だから、自分に余裕があるときに人に気づかいをすることができる。
でも、少し注意を要するやさしさを持っている方って
「『大丈夫です』、『頑張るね』、『すみません』という言葉の使用が普通よりも少し多い。それで、自分に余裕がなくなってきた時に“誰も自分のことは理解してくれないよな”と悲しみと怒りが同時にくる感情がくる」
という感じがします。DVなんかが引き起こされるケースって、「両方ともずっと我慢をして、自分を封じるのに慣れてきたカップル」が多かったりします。
だから、僕なんかが占いで人と向き合った時に、過度に「ペコペコ」がある方って、なんとか必死に、その自分が座る椅子周辺にバリアを張り、居場所を作ろうとされます。
ただ、追い詰められた時に「悲しみ」が感情として入っている人は、まだそこまで深刻じゃなくて、周囲に打ち解けたリ、話し合ったりをして良くなっていくことってできると、経験的に思います。
追い詰められたときに「怒り」、もしくは爆発的な「癇癪(かんしゃく)」しか出てこない人って、やっぱりそれは付き合う人に「避難警報」が出ると思います。そういう方への対処法って、専門家に相談するとか、専門技術が必要になってくることが多いです。
「やべえ、自分がそういうタイプだよ」
と思う方も多いと思います。僕なんかもしつこいけど、人生の一時期、我慢をして、「あ、大丈夫です」しか言わないで、突然「全部無理になりました。さようなら」と言ってきた体験があります。うわー、色々思い出す。ごめんなさい。
どうすれば良いか。
カップルで相方がそういうDV傾向があるという方については、ここでは無責任に触れられないので、「この人キレると、もう本当に怒りの感情しかない。どう手をつけて良いのかわからない」という人は専門家に相談してください。
「自分が追い詰められている」
そういう方は、大声が出せる環境が、現代都市生活者ってないんですよね。「バカヤロー!」とか。
それが出来ないから、たとえば今のあなたが「やらなければいけない」と考えていることが5個あると思います。そしたら、もしできるのならば4個は頑張ってみてください。「部屋の掃除をする」とか「友達にメールを返す」とか、そういうことも用件に入ります。でも、5個の「やらなければいけない」と考えていることのうち、そのうちの1つから「華麗に、急にダメ人間になったつもりでスルーする。お断りしていく」をやっていってください。
僕がやっているのは、5個やらなければいけないことがあったら、「全部を100点取ろうとしない。70点ぐらいでサボる」ということを意識してます。自分のTシャツをたたむ時はちょっとシワが残っていてもテキトーにたたんで引き出しに入れちゃうとか。
あと、何かの用件を「ちょっと考えさせてくださいね」とか「ちょっと予定を確認してみます。お待ちください」、「いやぁ、行きたかったんですけど、ちょっと最近バタバタで」とか、そういう「距離を取る」とか「自分の体力の消費に見合うワクワク感がなければ、断っても大丈夫」というルールを多少持つことが大切になります。
自分のことが自分でできるであろう“大人”に、必要以上に身を削ってボランティアをする必要はない(もちろん困っている方は除きます)
をやっていくことが大切になるんじゃないかと。
<
/p>
「自分を大切にして、他人に冷酷になれ」
と言いたいわけではなくて、自分のHP(ハートポイント)が「あと多分20ぐらいしかない」とか、そういうことを感覚的に把握しようとしていることが大切になります。「この人の前だと穏やかな気持ちになって、HPが60ぐらいで安定できる」とか、そういうことを感覚的に知っておいてみると良いですよ。
気象系BLストーリーです
閲覧ご注意ください
こちらN総受
本日はSN(磁石:翔にの)
サラリーマン
櫻井翔
×
アイドル
二宮和也
●side N
― 人身事故の為電車遅延、只今駅到着今暫し
櫻井さんからのラインはいつも漢文のようだ。
疲れた頭に一度読んだだけでは入って来ない、僕は暗がりに目を凝らして液晶画面をもう一度見つめた。
― 待ってて、ってことだよね。
さっきまでの生ぬるい風がひやりと肌を撫でていく、きっともうすぐ雨だ。
降り出す前に櫻井さんは帰って来るだろうか。
そういやあの人が使う駅ってここからどれくらい離れているんだろう、そんなことも知らない。
まだ、櫻井さんのことはそれほど。
僕は薄いジャケットのポケットにスマホをポトンと落とし入れると、その上から手を突っ込んだ。
どちらから帰ってくるのかもわからないまま、彼のハイツ前の歩道の縁石に立つ。
まさか僕が歩道に立って、帰ってくる恋人を待つなんて、
ぼんやりとしながら、何度か縁石を踏み降りる。
僕のマンションと違い周辺は割と静かで、21時ともなれば行き交う人もまばらだ。
トタッ、トタッ、と縁石を踏む自分の足音だけが聴こえ、その中を街路樹を揺らす風の音が絡めて抜けていった。
― 面白いな、本当に。
思わず零れる笑み。
芸能人の友達は自分が家にいるときにしか呼ばないし、呼び出されても店や誰かの家。
仕事はきちんと迎えがやってくる。外で待ちぼうけをくらうことなんてここ何年も一切ない。
何処かの中から、何処かの中へ。
そんな生活を続けていることにたった今、気づく。
空間に放り出されて誰かを待つなんて、何年ぶりだろう。
街路樹の向こうにある信号が、また点滅してゆっくりと赤に変わる。
白線の内側に従って停車した車のヘッドライトを、誰かが一瞬横切った。
冷たい風につられてなんとなく夜空を見上げれば、右目のすみっこに入る櫻井さんの部屋。
3階建ての小さなハイツ、ここへ来るのは二度目だ。
一度目は春の風が心地よかった5月のあの昼の日、そして今夜。
雨が落ち始めた。
まだ濡れるほどでもない。
街灯に照らされたアスファルトにひとつ、またひとつと雨が落ちる。
アスファルトは熱を抱え込んだままなのか、歩道に落ちた雨は片端から消えていった。今日の昼間は晴れてたんだな、スタジオにこもりっきりでわからなかった…。
コツコツと硬い靴底の音が近づいて、僕は嬉しさに地面を見たまま頬を緩めた。
待ちきれなくなり音のするほうへ顔を上げれば、白いワイシャツと細身のスラックスに身を包んだ櫻井さんが早足で近づいてきている。
「おかえり」
「濡れますよ、どうして屋根の下に居ないんですか」
「雨はこれからだよ」
「ここだと目立つでしょう」
「ぜーんぜん、誰も通らないもん」
空を見上げてから僕の顔と見比べる。
濡れてないでしょ、と眉を上げた僕を視線で促し櫻井さんはハイツの階段へと向かった。
後をついて階段を上っていく。
いつもの癖で周囲に神経をやるけれど、そうか、この人は男の人だった。誰に見られても、何も疑われもしないことにウキウキとして僕の足取りは軽くなる。
3Fまで上り切ると住人らしき男性と出会う、狭い通路で互いに身体をずらして進路を譲り合った。
下を向いてすれ違うその人の目には、きっと僕たち二人の男物の靴しか見えていないだろう。これが女の靴なら、彼は顔を上げたかもしれな
、ご近所さんはどんな女を連れ来たのかなって・・・
男二人が同じ部屋にしけこむ快感、友達?同僚?親戚、従弟、先輩後輩・・・
すれ違った男の想像するであろう、そのどれもに当てはまらないことにまた僕は気分を良くした。
前を行く、なだらかな肩を備え付けた後姿には今日一日ぶんのシワ、櫻井さんはこんな時、振り向いて僕の手を取るなどきっと思いつきもしない。
僕は思いついたってしないけど。
薄い金属のプレートがついた鍵を櫻井さんがドアノブに挿し込む。
僕はいつかこれと同じものを持つことになるのかな、左へ回されたその解錠の音に僕が反応する日が来るんだろうか。
ふふ、気が早い、
季節はたった二つ目に入ったばかりだ。
ドアは内側に開き、櫻井さんが背中でそれを支え僕を見た。
「お邪魔します」
コクリと頷いたその目が柔らかく細められて、僕の心が温かいもので満たされる。
****
「何か食べましたか?」
玄関を入ってすぐの小さなキッチンの横を通り抜けるとたった一枚だけドアがある。
その中は8畳ほどの洋室だった、部屋はこれひとつで櫻井さんはここに住んでいる。
掃き出し窓に面した壁際にテレビがあり、その前に木目のローテーブル、そして一人がけの座椅子。
ソファはなく、織の詰まったラグが敷いてある、ベッドは装飾の無いシングル。
その他の壁には隙間なく本棚が3台あって、そのどれもに本がぎっしりと詰まっていた。
一部分背表紙のカラフルな本が揃っている、僕の出た映画雑誌や女性誌、映画のパンフレットに、アラシゴトまである、懐かしいなぁ…。
「うん、今日はスタジオだったからケータリングでラーメン食べた、櫻井さんは?」
ネクタイをときながら背を向けたままの櫻井さんが、備え付いたクロゼットの鏡越しに僕を見る。
ひと月ぶりのその顔は少しだけ疲れているように見えた。
「遅延の間に駅の立ち食いソバを食べました、みんな思ってることは同じで店はそんな人だらけ」
シャツのボタンを外して袖をまくり、その時のことを思い浮かべるように笑う。
「カウンターがぎゅうぎゅうで弾き出されてしまいました、おかげで薬味なしのソバでしたよ」
「そりゃ味気ないね、でももっとスタミナのつくもの食べなきゃ、なんか顔色よくないよ」
「私にスタミナが付いたら、貴方は明日の朝まで眠れない、薬味がないソバに感謝しておきなさい」
「…何言ってんの、ふふ」
前回来た時にはなかった扇風機。
布団は冬用から、夏掛けに変わっていた。
意外にも乱れているのを見てなんだか嬉しくなる、今の言葉も甘くて、顔がにやけた。
「ねぇ、朝、急いでた?」
「どうして?」
キッチンへ向かいながら不思議そうに振り返ると、
布団をちらっと見た僕に向かって大真面目に言う。
「ああ…、それは今朝まで居た女と慌てて家を出たからですね」
「ふぅん、昨日は女と寝るくらいスタミナあったんだ」
「朝はかかさないコーヒーを飲む時間もないほど、そりゃあもう盛り上がりましたから」
「…で、今からその女と飲みそこねたコーヒーを、飲むと」
「その女より、貴方と飲む方がおいしいことを私は知ってますから」
「女ねえ」
きっと僕が笑顔なんだろう。
櫻井さんも頬を緩めてキッチンへ引っ込んだ。
+++++++++
『いい加減にしろよ お前この野郎』
なぜか僕のドラマの第7話が再生されている。
櫻井さんがこう言ったからだ。
「守屋院長からのメールを渡海が武田のIDを使って見たでしょう?なぜ守屋院長は証拠の残るメールを使ったんでしょうね、紙媒体を封書で郵送するとか、USBを使うとか、手はあったはずなのに」
「あれじゃないの、世代的にITリテラシーに明るくないからじゃないの?」
「それこそ、年齢で言えば封書のほうが思いつく」
&nb
sp;
残り少ないコーヒーをすすりながら、ドラマのファクトチェックに余念がない櫻井さんを眺める。
ネクタイを外しただけで、着替えもせずに真剣に画面を見ているなんて
このあと僕を家まで送るつもりなんだろうか。
「‥‥‥。」
初めてここに来た日、僕は日付が変わる前に家へ帰った。
タクシーに乗り、今夜のように狭い階段を歩いてのぼって部屋へ滑り込み、
せわしなく互いの衣服を脱がせ合いベッドへと沈み込んだあの日…
なんて、そんなドラマのようなわけもなく。
ゲームでチャットしていたころと変わらない、たわいもない話をここで顔を合わせてしたにすぎない。
コーヒーを数杯と、櫻井さんが晩酌に使う焼酎を少し傾け肩を並べてゲームをした。
相変わらず櫻井さんはうまくなかったし、感覚よりも正しい説明を欲しがったから、
その度ゲームを一旦停止して僕がナビゲートする、でもそれが楽しくて。
あの日。
僕は小さなアジトのようなこの部屋の間取りをちゃんと覚え、隣の住人の性別を知り、櫻井さんがゲームに苦戦したときは小さく膝をゆすることに気が付いた。
夕暮れが宵とばりに変わっても僕たちは笑って過ごし、焼酎が数センチ減ってゲームに飽きたころ、…なんとなく見つめ合ってキスをした。
カチャリと櫻井さんの眼鏡が囁くたびに、2、3回角度を変えただけの優しいキス。
先を急がない櫻井さんに安心して、僕は日毎に惹かれていく。
『かまわん 守屋はいずれ 切るつもりだったからな』
今、テレビの中で西崎教授が言い放つ。
電話越しに高階先生はああもう、この人は…と複雑そうな顔をみせていた。
黒っぽい眼鏡のツルが渡る櫻井さんのこめかみを見ていたら、ふいに振り向く。
「そういえば、クランアップはいつ?」
「予定では来週の木曜、たぶんズレないと思うよ」
「もったいないな、本当にこのドラマ終わるんですね」
小さいため息と共にぽつり呟き、腕を組んで唸るからおかしくて。
あちこちから聴こえてくる同様の声、そのどれよりも櫻井さんのこの呟きが嬉しかった。
ドラマの撮影が終われば、もっと会えるようになるよ?と言ってみたくて上がる口角を引き結んでみる。
「私がこのひと月、誰と一番LINEしたか知ってますか」
親指で形の綺麗な唇を弾き、櫻井さんは微笑んだ。
「…、僕?」
首をかしげる僕にテーブルの上のスマホを見せ、
「渡海先生」
と肩をすくめてみせる。
「知らん、とか、邪魔、とか…ずいぶんな言われようでしたよ、渡海先生のご機嫌を取るのは難しい、高階先生が手こずるのもわかります」
ピンとフリックして画面を送り、櫻井さんは笑った。スクロールする画面の膨大な長さに呆れながらも口がへの字になっていく僕。別にさあ、僕を思って泣いてろとは言わないよ?でも渡海にそれだけ相手になるなら、僕にLINEくれたっていいよね?
「渡海より、僕の機嫌をとらないの?」
ちらと横目で僕を見た櫻井さんは、スクロールをやめスマホを暗転した。
伸ばされた手で頭を引き寄せられて、僕はゆっくり櫻井さんの胸に倒れ込む。
「…これでご機嫌とってんだ」
「ネクタイを外したら、ここにあなたを抱き寄せる。どちらかというと私の機嫌です」
ネクタイを外したこの場所が、僕の…
白いシャツに規則正しく並んだボタン、満員電車の匂い。
これに袖を通して部屋の鍵を閉め、光の中を駅へと急ぐ櫻井さん。
見えもしない景色を思って切なくなるなんて、なかなか僕が重症…
「渡海先生のことは高階先生にお任せしますよ。私は貴方で手一杯ですから」
旋毛から聴こえる低い声に目を閉じる。
全身に小さな鳥肌が立ち揃う、心臓がトクンと跳ねた。
ぽんぽんと撫でられる髪、始まる気がする。
「…、ねえ」
「はい」
「どうしよう、ご機嫌直らないな」
「ダメですか」
「うん」
「さては甘えてますね?」
耳たぶを柔く引っ張られて、僕はクックッと笑った。
テレビの中では次回の予告。
渡海は男の胸ぐらをつかんで怒鳴っているのに、
猫のように体をすり寄せる今の僕のこのざまは何だろう。
「困っちゃうよね?」
「まさか」
櫻井さんは身体を離す。
眼鏡の奥の瞳は楽し気に細められて。
「私から貴方を欲しいと言わずに済みましたから、…逆にありがたい」
「…っ」
言葉に詰まった僕の唇に、櫻井さんがふわりと重なる。
初めての夜。
++++++++++
「…てっきり二人で入るんだと思ってたよ、お風呂すげー狭いね」
「こんなものですよ、築10年の1K、家賃は7万5千円。貴方のタワーマンションが異常なんですから。・・・うちの風呂に二人で入ったら貴方の身体に痣が出来る、無理です」
「今度は僕んちへ来なよ、お風呂でっかいからさ」
「慣れてください。風呂の狭さにも」
部屋の電気と入れ替わる様にベッドサイドの灯が点いた。
「ここで抱かれることにも」
櫻井さんは微笑む。
シャワーを別々に浴びた僕らは並んでベッドに腰かけている、まるで友達のように。
櫻井さんは普通にパジャマのズボンとTシャツ、僕は借りたTシャツとはいてきたパンツで。
蛍光灯のスタンドが点いているし、テレビは普通にニュース番組だ。
「電気とか、消すよね?消してよ、絶対…これ明るくない?」
おずおずと言えば、櫻井さんはハハハと笑って腕を組んだ。
半袖のシャツから伸びた腕は案外たくましい、鍛えてるのかな…
「今のうちにお互いの呼称を決めましょう」
「そんなの、そのうち決まるんじゃない?僕は何でもいいけど」
「呼び名は大切ですよ、私もいつまでも貴方というわけにもいかないし」
「どっちかっていうと櫻井さんのほうが懸案事項だよ、僕はすぐに名前で呼べるから」
「じゃあ」
「わっ…」
ふぁさっと身体をすくわれて、シーツへそっと倒される、二の腕の筋肉は嘘じゃなかった。
真上から見下ろして来た櫻井さんはニヤリと口を捻って。
「呼んで」
「え、」
「すぐに名前で」
「でも」
「呼べよ、呼ばないと先に進まない」
きゅ、急にタメ語なんてずるいし・・・!
枕に散らばった毛先の隅々まで赤面した僕が焦っていると、
電気が消され、部屋の主はニュース番組だけになった。
あぁ、シャワーヘッドから出る湯の勢いが痛いほど鋭いことも、シングルベッドは正直狭いことも、蛍光灯は全然ムードがないことも、急にキャラ変してくるのも、なにもかもがずるい。
この人が見せる変化球は僕の性欲のふたを簡単に外した、ずるいよ、欲しいよ、僕だって。
たまらなくなって櫻井さんを抱き寄せた。
「…、じゃあ名前で呼びたくなるように、して?」
搾り出した声が掠れて、雨音に消える。
時間をずらして入ったお風呂、シャワーだけを済ませた僕の身体はきっと冷たいだろう。
初めて抱き寄せたあなたの首筋、擦り合う頬は温かい。
+++++++++
雨は止まない。
八分音符を並べるように、規則正しく降り続けている。
「世界中の本が見下ろしてるみたいで、…なんか変だよ、いろんな国の言葉が聴こえる感じ」
「貴方のそういう感覚、好きですよ」
僕たちは狭いベッドを早々に捨て、布団を引きずり下ろしてラグの上に居る。
さすがに男二人でシングルベッドはきつい、というか危ない。
櫻井さんはゆっくり僕の脚を割って、身体を入れてきた。
再び迎える、中に。
「・・・ん、待って、待って、メガネとってよ」
首筋を食んでいた櫻井さんの髪をくしゃりと掴む。
眉をあげて僕を見れば冗談じゃないとその目が言っている、どうして?と僕は視線で尋ねた。
「隅々まで見せてくれないんですか?貴方を」
「・・・、っ」
-・・・、もう、勘弁して・・・、僕の身体に小さな痺れが走りまわる。
ドラマや映画の現場で何十回と甘いセリフを言ってきた僕が、ド素人のあなたの言葉で濡れるだなんて。
「電気を消せと言ったのは貴方だ、したがって眼鏡はとりません」
そう宣言して僕の腰を片手で支え、胸にキスしながら櫻井さんは僕を味わっていく。
「・・・、ん、は」
櫻井さんの方がハリウッド俳優だ、ハーレークィンロマンス小説だよ。
恋に晩生なフリをしているだけじゃないの?
無駄にいい筋肉つけてるし、お風呂のボディーソープはどう見てもレディースライン。
肌に直接つけないと香らないようなコロンの匂いもするし、本当は…今朝の女も本当にいたかもね…?
「何か気になりますか?」
「本当は、っ・・・、すげー遊び人なのかもね、櫻井さんて…」
揺らされながら溶けていく半身。
相性がいい、たぶん、たぶん、ぜんぜん痛くない…
気持ちよくタイミングが重なって、なんにも違和感がない…
怖いくらいの幸福感をつつくように、壁から誰かの声がした。思わず櫻井さんの腕をつかむ。
「、まじ?と、隣?」
動きを止めた櫻井さんは、僕を緩く抱き込むと頷いた。いたずらな瞳になるから、ここから先は共犯だ。
「…壁、うっす、聴こえちゃわない?いろいろ」
「聴かせてやりましょう、隣の寂しい独身男に貴方の声をね、かわいいやつを」
こめかみから頬を通って唇に囁かれ僕の耳の中に充填されていく、愛のことば。
上向きの自分に添えられた手が優しくて、大切にされているとよくわかる。
だからなおさら身体は敏感に反応して、櫻井さんを奥へと誘う。
舌が鎖骨を掠めたときに、小さく声がでた。
「…や、俺、我慢強いから…、ん」
「強がり方が下手すぎる、演技派のニノが聴いて呆れますよ?」
それ、公式の僕の情報でしょ、櫻井さんの僕を教えてよ・・・と息を整えながら訴えれば
ゆっくり肌を縁どるように撫でられた。
あなたの手のひらに、磁石のように吸い付いて行くのは僕の身体の方かもしれない。
「私が知るあなたは・・・、身体が冷たくて」
優しい瞳が降って来る、毎回こんなにロマンチックだったらどうしよう。
34歳にもなってこんなにドキドキするなんて…
「脱いだらわりと肩幅がありました、それから…、ごめん、想像以上に気持ちいい」
暗がりに照れ笑いする櫻井さんが可愛くて、その頬に手を当てた。
八分音符を刻む強い雨の音と僕の鼓動が重なっていく、なんだろう、言葉が出て行かない…。
「どうしたんですか」
緩い突き上げに、誤魔化すように首を振って。
「・・・、雨かと思ったんだ、少し早いから。櫻井さんの心臓の音が乱れるはずないよね、フフ」
「見くびらないでほしい、私は充分興奮していますよ」
瞳をみつめながら、そっと浮かせた手のひらを櫻井さんの頬から胸へとあてる。
鼓動は僕と同じくらい早かった。
「見くびってない、・・・幸せなんだ、」
ほろっと呟いた。
34年間の二宮和也がそれは違うだろうと突っ込んで来る。
そう、僕が素直に誰かを好きだと言うなんて、僕も間違っていると思う、思うけど
「好き、翔さん」
このなんてことない、セキュリティーの緩い小さなハイツで、薄暗がりのな
床に横たわって。
ただ恋をする男になる、それがこんなに心地いいなんて。
涙が零れた。
それを追うように落ちて来た唇が僕の名前を呼ぶ。
あれほど「呼称」に悩んでいたこの人が、和也、と呟きながら僕の唇を食んでいる。
「…雨でよかった。隣のアイツに和也のこの声は刺激が強すぎる」
「じゃあ、…ねぇ、これから雨が降ったら…、翔さんの部屋でしよう?」
甘えた声で、僕はねだった。
櫻井さんは最後まで優しく、僕の躰の鍵をひとつひとつ丁寧に外してくれた。
夜明けまで雨は存分に降り続け、
僕は何度も果てて声を上げた。
fin.
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
もし、
「同じタイトル」と「同じワンセンテンス」で同時にお話を書いたらどうなるだろう?
お友達の
とそんな遊びを思いつきました。
言葉を決めて、それぞれがイメージする世界で遊んでいます。
お互い相談もせず、何を書いたかも知らないアンソロジー風。
『 雨は止まない。八分音符を並べるように、規則正しく降り続けている。 』
このワンセンテンスはどの部分に使われているのか、ポエムかな、お話かな・・・
ただ、同時刻にUPして楽しもうという、ただただお互いが楽しい遊びをしました。
涼風さんの 『 甘雨 』 は こちら →
お付き合いくださってありがとうございました (*’▽’)
by あるふ & 涼風
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:.
ニノ、お誕生日おめでとう
こころから
お祝いを云えること、ほんとに幸せだとおもっています
これをよんでくださっているニノ担さん、おめでとうございます
ニノが元気でお仕事いっぱいしていて、そして私もこの日を迎えられた(*´ω`*)
この日のために私が喜んでできるのはこのお話をかくことでした
特別なはなしじゃないし、特別な日すぎてなにもいえなくなるという情けない担当です(笑)
けれど前に書いた の設定が好きでまた書きました
ここ2週間ほどPCの具合が本当によくなくて、一単語入力するのに3倍の時間がかかります
そのため書くのがめちゃくちゃ大変になり、すずちゃんを何度もびびらせました(笑)
すずちゃん、ごめんね、そして待っていてくれてありがとう☆
みなさん、よい記念日を(.゚ー゚)♥